エビング初体験

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(初出:2006年8月)

沖縄県のパヤオ周りで、“エビング”という何ともユニークな釣り方が流行っている。

6月下旬に行われた、沖縄本島南部の与根漁港におけるマグロ釣り大会にゲストとして参加した折、顔見知りの船頭さんに教えられた。

「村越さん、パヤオのマグロ釣りにものすごく効果のある釣り方があるんですよ」

「えっ、どんな釣り方ですか?」

「明日の大会が終わるまでヒミツにしておこうと思ったんだけど、教えちゃいましょう」

そういって取り出したのが、“ゴールデンベイト”、すなわち、㈱ヤマリアが製造・発売している、ビニール製のエビ。

大きさは10センチ程度。クルマエビを模したような感じであるが、どう見ても子供のおもちゃ風。カラーは、透明感のある、淡いブルー。

予め反応を予想していたに違いない船頭さんが、ニヤニヤしながら、「信じられないでしょう」とぼくに言った。

「はい、信じられません」

ぼくは素直にそう答えた。

「でも、威力は凄いですよ。今では漁師連中もそれで漁をしているくらいですから」

普通、このあたりの漁師さんたちは、パヤオ周辺でキハダやメバチを釣る場合、“パラシュート”と呼ばれる釣り方で挑むケースが圧倒的に多い。

パラシュートというのは、パラシュートのような形の布にコマセやらハリスやらツケエサの付いたハリやらの一切合切を忍ばせ、魚のいるタナまで一気に沈めてドバッと開き、コマセとツケエサを同調させておき、どさくさに紛れて食わせてしまおうという作戦である。

その釣り方を考えたのは、糸満の漁師さん。合理的で威力も抜群であることから、沖縄本島はもとより、大型のキハダやメバチの魚影が濃いことで知られる久米島の漁師さんたちも、今ではほとんどみんな“パラシュート”スタイルでマグロ漁をしている。

その威力抜群といわれるパラシュートより釣れるというのだから聞き流すことはできない。

当然、通常のバーチカルジギングとは比較にならないほど、よく釣れるのだという。

「ルアーフィッシャーマンである村越さんに、どうしてもやってみてください、とお願いするわけにはいかないですが、気が向いたらぜひ試してみてください」

そういいつつ、黄色い台紙に青文字で「YAMASHITA」と書かれたヘッダー付きの、ビニールエビが5、6尾入った袋を手渡してくれたのだった。

翌日、ぼくはルアーフィッシャーマンばかり6人の乗った船でパヤオに向かった。

行程は、およそ1時間。

海上はベタナギで、風もなく、心地よいことこのうえない。

まずは、いつものようにトップウォータープラグのキャスティングでキハダに挑む。

ぼくは、パヤオ周りでキハダを狙う場合、状況的に可能である限り、トップウォータープラグのキャスティングで、衝撃的なヒットを狙うことにしている。

使用するルアーは、概して大型。

代表的なのは、『尺ペン』『縮尺2/3ペン』『ムラムラポップ』『ドラドペンシル18』『ドラドスライダー18』等など。

でっかいルアーをガバガバやって、それにドカンと飛び出すワイルドさこそ、沖縄の海の真骨頂であり、キハダゲームの面白さであると考えているからだ。

沖縄ならではといえるのは、30センチもある『尺ペン』にカツオが躊躇することなく飛び出してくること。

これは、内地の、少なくとも相模湾あたりでは考えられない。

もちろん、沖縄のパヤオでも小さなルアーはそれなりに威力を発揮するが、できるだけでっかいルアーで、できるだけワイルドにやりたいというのが、ゲームフィッシャーマンとしての小さなこだわりなのである。

始めは、30ポンドテストタックルに『縮尺2/3ペン』をセットし、ポッパーのように激しく引いたり、ロッドをチョコチョコあおりつつ、ドッグウォーキングでくねらせたりしてみる。

と、すぐに5キロ程度のキハダが飛び出した。

さらに何尾か、キハダを釣り上げたものの、次第にカツオばかりが飛び出してくるようになった。

朝の早いうちはキハダが上ずっていてすぐヒットするものの、ピーカンの日中は沈み気味で渋くなるというのは、いつものパターン。

そうなれば深いレンジを直撃するために、バーチカルジギングをおこなう。この日も、バーチカルジギングに切り替えるとすぐに、ヒットがあった。

何もかもが予想通りの展開である。

そしてさらに、これまた予想通り、一切のアタリがなくなった。

船上のだれのトップウォータープラグにも、メタルジグにも、魚たちが全く反応しなくなってしまったのである。

ただし、魚がいなくなってしまったわけでないことは、魚群探知機の画面を観れば一目瞭然。

船頭さんは諦めることなく、潮回りを繰り返しては、反応のあるエリアを何度も流してくれる。

相変わらず魚はいるのに、ただただ、ルアーに食いついてくれなくなってしまっただけなのである。

そこで、前夜知り合いの船頭さんから手渡されたビニールエビを取り出し、使ってみることにした。

多くの場合、あえて新しいことを試すのは、窮地に陥ってからのケースが多く、その威力を実感することはなかなかできない。

この日も、新しいことを試すにはふさわしくない状況であると分かっていたが、成す術のない中で、それでもあえて試してみようと考えたのだ。

ショックリーダーの先に40センチほどのテンビンを結び、オモリの代わりに150グラムのメタルジグをぶら下げる。

ハリスは、フロロカーボンラインの10号を4・5メートル。その先に、アシストフック製作用に持っていた、3/0のシングルフックを結び付けた。

そのフックに、件のビニールエビをセット。

参考に見せていただいた船頭さんの仕掛けでは、ビニールエビのどてっ腹にマグロバリが無造作に突き刺されていたが、ぼくはビニールエビの水中姿勢を考え、鼻先にちょこんとフックを刺すことにした。その方が、しゃくった際に回転したりしないだろうと考えたからだ。

船頭さんによれば、魚の反応は150メートルあたりに出ているとのこと。

エビング仕掛けをぼちゃんと放り込み、そのまま170メートル沈めたところでしゃくりを開始する。と、何といきなりヒット。

思わず自分自身の目と、現実を疑った。

あれほどポッパーをキャストしたのに、あれほどメタルジグをしゃくり続けたのに、全く反応しなかった魚が、わずか1投目の、わずか1しゃくり目でヒットしてしまうとは考えもしなかった。

あがってきたのは、5~6キロのメバチ。

再び投入し、しゃくりを開始すると、今度は3しゃくり目でゴツンときた。

もはや頭は混乱し、戸惑いとも衝撃ともつかぬオドロキがぼくに襲い掛かった。

その魚は7~8キロの良型。

何やら分からぬまま、せかされるように投入し、しゃくりを開始すると、すぐにヒット。

こうして、5投して5回のヒットがあり、あ然としつつ4尾のメバチを取り込んだ。

こんなことがあっていいものだろうか。

これほど威力のある擬餌が存在していたとは驚きである。

同船のルアーフィッシャーマンたちにビニールエビを配り、試してもらうと、それまで全く振るわなかったアングラーまでもがすぐにヒットを得た。

魚たちに取って、何がそれほど魅力的なのかは皆目見当がつかない。

ビニールエビそのものなのか。カラーなのか。サイズなのか。水中での動きなのか。

ちなみに本島では淡いブルーが人気で、宮古島ではブラウンが好んで使われているとのこと。

いずれにせよ、日中、反応しないマグロたちも、擬餌で十分釣れることが分かった。

となれば、ルアーフィッシングとしても、まだまだ研究の余地があるということ。

他のジャンルの釣りをしていてルアーフィッシングのヒントを得たことは、これまでにも数知れない。

エビングの何が、魚たちにとってそれほど魅力的なのか、今はまだ見当さえつかない。

 

(初出:2006年8月)

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