釣り人だけが知っている究極の味

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蔵出しエッセイ(16)

(初出2009年10月)

「釣り上げた魚はいつもどうしているのですか?」

テレビの釣り番組や釣り雑誌の取材で釣り上げた魚たちの行方が気になるのは、魚好きの日本人にとっては当然のことなのかもしれない。

「魚は基本的にみな逃がしています。キャッチ・アンド・リリースです」

そう答えると、ほとんどの人がこう続ける。

「逃がしちゃうなんてもったいない。どうせ逃がしちゃうのなら、着払いでいいからウチに送ってください」

まあ、当然といえば当然か。

おそらく、釣りたての新鮮な魚がタダで手に入るなら、それほどありがたいことはない、ということなのだろう。

ところが、「送ってもいいですけど、発泡スチロールの箱代やら氷代やら宅急便代やらで、費用が4000~5000円かかっちゃいますけどそれでもいいですか?」

と実際にかかる経費を伝えると、

「えっ、そんなにかかっちゃうんですか。それじゃあ、魚屋さんで買った方が安いかもしれないなぁ」

と、一気にトーンダウンしてしまうのである。

実際、釣った魚を宅急便で送るのは、意外と高くつく。

ただし、ぼく自身がほとんどの魚を逃がし、釣行先から家に持ち帰らない理由は、送料が高くつくからではない。

釣り場の魚が減らないよう、出来るだけ逃がしてやろうと決めているためだ。釣り場が荒廃すれば、釣りを楽しむことができなくなってしまうからである。

もちろん、だからといって釣り上げた魚の全てを海に帰しているわけではない。

家で食べる分以外は基本的に逃がす、というスタンスなのである。

持ち帰る魚は、釣り上げた直後から徹底管理をするのがぼくのこだわり。新鮮な魚を最高の状態で家に持ち帰ってこそ、究極の魚料理を味わえるからだ。

例えば、ぼくは〆サバが大好きなので、旨そうなサバが釣れれば持ち帰る。

釣り上げたら即、エラを1、2本指でむしり取り、海水を張ったバケツに放り込む。サバは激しく暴れ、やがて失血死する。

次に、残ったエラと、内臓を全てノドから引き出し、水氷に放り込む。

重要なのは、一切刃物を使わないこと。

露出した身から水氷が浸透するのを防ぐためだ。

こうして管理したサバは、包丁を入れてもほとんど血が出ないし、半身を立てて持てるほど身が締まっている。

たっぷりの塩をまぶして2~3時間冷蔵庫で寝かせ、塩を洗い流したら今度は1~2時間、酢に浸す。

薄皮を剥ぎ、適当な大きさに切れば、究極の〆サバが出来上がる。

さらに、表面が焦げる程度にバーナーで焼き、炙りにしてもおいしくいただける。

新鮮な魚を最高の状態で食べられるのが、釣り人の特権なのである。

(初出2009年10月)

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