蔵出しエッセイ……スレ掛けを容認できないワケ

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蔵出しエッセイのシリーズに入れさせていただきましたが、実はこれ、今年の4月に発売したばかりの、ルアーフィッシングの入門書『海のルアー釣り・完全ブック』の中に書いたエッセイです。

たまたまドンピシャの内容だったため、「蔵出し」ではないのですが、掲載させていただくことにしました。

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以下の文章は、『海のルアー釣り・完全ブック』(メイツ出版)

P56 掲載のコラムです

かつて、ぼくがまだ東海大学海洋学部に在籍する学生だった頃、住んでいた静岡県内のアパートから、釣り場開拓も兼ね夜な夜なシーバスフィッシングに出掛けていた。

行動範囲は、沼津市の狩野川から、用宗漁港あたりまでの間。川あり、サーフあり、漁港ありとシーバスが釣れそうな場所に事欠くことはなかった。その一つ一つの場所で実績をあげるのが、当時の目標だったのである。

ある時、焼津港内の岸壁からミノーをキャストしていると、クロダイ釣りに興じていたおじさんが話しかけてきた。

「兄ちゃん、何を釣っているんだ?」

「シーバス。いやスズキです」

シーバスフィッシャーマンなどほとんどいない時代であり、当然のことながら“シーバス”などという呼び名は浸透していなかった。

「エサは?」

「いえ、ルアーです」

途端に怪訝そうな表情になったおじさんは、ぼくの差し出したルアーを珍しそうに眺めながらこう言うのだった。

「ははーん、そのイカリバリで引っ掛けちゃうんだ」

「いえ、引っ掛けるんじゃあなくて、これに食いついてくるんです」

「そんなモンに食いついてくるわけがないじゃあないか。引っ掛けちゃうんだろ。ああ可哀そうに」

それ以上説明しても、聞く耳を持たないおじさんに理解してもらえないのは歴然で、ルアーフィッシングに傾倒していたぼくにとっては、実に歯がゆいおもいだった。

以来、スレ掛かりであがってくるのは釣れたことにはならないと強くおもうようになり、その意識は現在でもなお、ルアーフィッシングの在り方として意識し続けている。

そんなことだから、ライフワークとして挑み続けているシーバスフィッシングにおいて、12㎝程度のフローティングミノーに装着するトレブルフックは2本で十分とおもっている。トレブルフック3本でシーバスに挑めばフッキング率はよくなるものの、確実にスレ掛かりが増えてしまうからだ。

さらに、タチウオのジギングにおいては、できる限り小さなトレブルフックを1本だけ付けるようにしている。そうすることによって、多発するスレ掛かりを概ね回避することができるのである。

そんなこんな、ぼくがルアーフィッシングにおけるスレ掛かりを極力減らそうと意識しているのは、おそらく30数年前に味わった歯がゆいおもいが頭のどこかに深く根付いているからに違いない。

ルアーフィッシング草創期の苦悩など、今はもう過去の笑い話でしかないと分かっているのだが……。

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