蔵出しエッセイ⑬

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<秋の夜長に読書にふける>

 

 秋の夜長、とりわけ雨の降る夜などは、お気に入りの音楽をBGMに、読書にふけるのもよい。

 

 このところのぼくは、もっぱら、昭和30年ごろの磯釣り場開拓記や、古き文筆家たちの綴った釣り文学を読み漁っている。

 

 関東におけるイシダイ釣り場開拓の様子を克明に綴っているのは、永田一修。写真家でもある氏は、釣りにかかわる貴重な写真も数多く残している。

 

いかにも新聞記者(毎日新聞社勤務)らしい飾らぬ文章と、釣り人ならではの視点でとらえた写真からは、往時の釣り人たちの釣りにかける想いがひしひしと伝わってくる。

 

そんな書物を熟読してから磯に立つと、「ああ、かの永田一修も、文筆家の井伏鱒二も、この磯に立って釣りをしたんだなぁ」などと感慨深く思うようになる。

 

川や港や海岸線が時代とともに変貌しても、磯は変わることがない。何10年も、何100年もの間、全く変わらぬ状態でそこにある。

 

その磯の上から、過去どれほど多くの釣り人が竿を出したのだろう、などと想いを馳せれば、いやがうえにも不思議な気分が湧きあがってくるのだ。そんなことを想うのも、齢50を過ぎた年齢ゆえか。

 

ちなみに、井伏鱒二をご存じない方はまさかいないと思うが、念のために、代表作は『山椒魚』『黒い雨』。文章家として著名な井伏氏は、釣り師としても有名で、近年、釣り関連の記述をまとめた、『井伏鱒二文集』が文庫本として書店に並んでいる。

 

もうひとり紹介しておきたい大好きな作家がいる。

 

榛葉英治。

 

釣り文学としての代表作は、『釣魚礼賛』『続・釣魚礼賛』。中学生時代から、何度読み返したか知れない。作家という感じではなく、一人の釣り人として、やさしい表現のみを使った釣行記は読む度に惹きつけられる。

 

お気に入りの釣り本は、秋の夜を長く感じさせない。

(初出:2009年9月)

 

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