蔵出しエッセイ⑧

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<Tシャツが捨てられない> 

古くなったTシャツが、なかなか捨てられない。

 何度も袖を通し、数え切れないほど洗濯を繰り返し、ヨレヨレになってしまっているにもかかわらず、すんなり処分することのできないTシャツが手元に何枚もあるのだ。

洗えば洗うほど肌触りがソフトになり、着れば着るほど身体に馴染んでくる、という理由も確かにある。年月を経ただけ、愛着も湧いてくる。

ゆえに、ポンとゴミ箱に捨てることができなくなってしまうのである。

 そもそも、Tシャツは、どこかへ出掛けたときに記念として購入するか、土産物としていただくことが圧倒的に多い。あるいは、イベントに参加した証しだったり、仲間同士であつらえたりするケースも少なくない。

ぼくの所有するTシャツは、優に100枚以上。

引き出しからはとうに溢れ、いよいよ、何とかして処分しなければならない状況になってしまっていたのである。

そこで随分前に考えたのが、海外へ釣りに出掛けた際、着るだけ着てそのまま処分してくるという方法。

釣り具や衣類を詰め込んだスーツケースの重量が、航空会社の制限重量を超えぬよう、常にギリギリの闘いをしているぼくにとってみれば、帰りの荷物が少しでも軽くなるのはありがたいこと。一石二鳥の良策といってよい。

ところが、着終わったTシャツをいざ処分する段になると、捨てようと決めていた気持ちに迷いが生じる。

「来る時より荷物が増えているわけでもないし、とりあえず、このまま持ちかえることにするか。日本に戻ってから捨てたって遅くない」

 かくして、くたびれたTシャツは、再び、いっしょに帰宅することになるのである。

 そんなことを幾度か繰り返した後、「このままではダメだ。Tシャツが溢れてしまう。次の釣行では、何としても現地で処分してこよう」と心に決めた。

 釣行先は、暖かな南の海。

 ところが、釣りをしながら現地人の服を観察してみると、どれもこれも、破れたり、伸び切ったりしてくたびれ果てている。

 どう見たって、処分しようとしているTシャツの方がきれいでしっかりしている。

そんな状況からすれば、捨てようとしたTシャツを皆が「欲しい」と言うのは当然のことなのである。

 そこで、次に問題になるのが、Tシャツのあげ方。

汗にまみれたTシャツをホイと脱いでそのまま進呈するのも申し訳ないし、だからといって、いったんゴミ箱に放り込み、後で拾って再利用していただくというのも、なんだか見下しているようで気が引ける。

 そこで考えたのが、着終えたTシャツを1枚1枚きれいにたたんでおき、全日程を終えたところで、「もしよかったら利用してください」と、テーブルの上に積み上げる方法。

 すると彼らが、「それはもったいない」と言って、分け合いながら持ち帰る。

 かくして使い古したTシャツは、別のステージで、新たな歴史をまた刻み続けることになる。

 

(初出:2009年9月)

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